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「健康経営って、なんとなく聞いたことはあるけど…」
「社員には伝えてるつもりだけど、イマイチ浸透していないかも…」
そんな声を、現場や管理職の方から耳にすることはありませんか?
実は、“健康経営”を本当に職場に根づかせるには、ただ制度を整えるだけでは不十分です。
管理職や社員一人ひとりが「なぜそれが必要なのか」「自分にどんなメリットがあるのか」を理解してはじめて、行動が変わります。

Sailing Dayの羊一です。
今回は、【健康経営優良法人】の認定項目にもある「教育機会の設定」に注目し、実際に取り組む企業の工夫や、明日から始められる実践アイデアをご紹介します。
1. 「教育機会の設定」が重要な理由

せっかく健康経営に取り組んでも、社員に「健康って自分には関係ない」と思われてしまっては、行動にはつながりません。
「制度」を「自分ごと」に変えるには、まず「学ぶ場」が必要です。
「知らない」から動けない
禁煙支援や食事改善、メンタルケアなどの制度があっても「なぜ大事なのか」「どんなメリットがあるのか」を知らなければ、誰も動こうとはしません。多くの職場で行動につながらない原因は「情報不足」にあるんです。
知っているだけで、“放置”が“対策”に変わる
「ちょっと疲れてるだけ」「そのうち良くなる」そう思って見過ごしていた不調も、知識があれば気づけます。
「気づければ動ける」それだけで、結果が大きく変わることもあるのです。
健康経営は、学びから始まる
制度をつくるだけでは、「また形だけの取り組みでしょ?」と思われてしまいます。社員みんなが「なぜ必要なのか」をきちんと理解してはじめて、職場に“健康を大切にする空気”が根づいていくのです。
2. 健康経営優良法人と「管理職または従業員に対する教育機会の設定」の関係

認定要件から見ていきましょう!
(1)健康経営優良法人の認定要件
「健康経営優良法人認定制度」は、社員の健康に積極的に取り組む企業を評価・認定する仕組みです。
その中で「教育機会の設定」は、評価項目の一つとして重視されています(全15項目中の④番)。

(2)申請時のチェック項目
Q1.管理職や従業員の健康意識の向上を図るために、健康保持・増進に関する教育をどのように行っていますか。(いくつでも)
◆eラーニングやウェビナー等での実施を含みます。
◆個人が任意で受講している研修等は含みません。
◆イントラネットへの掲示、動画等の周知・案内のみは含みません。
◆女性の健康課題、たばこの健康影響に関する研修・セミナーは除きます。Q23、Q27 でお答えください。
1 従業員に対して社内で研修を実施している
2 管理職に対して社内で研修を実施している
3 従業員を社外の研修に参加させている
4 管理職を社外の研修に参加させている
5 衛生管理者や健康づくり担当者等の代表者を社外の研修に参加させている
(ただし、従業員の健康リテラシーの向上を目的としていない専門職向けの専門職研修は除く)
6 心身の健康に関する検定等の受講・取得支援(対象期間中に支援実績がある場合のみ)
7 特に行っていない ⇒Q15も非実施の場合、評価項目不適合
Q2.(Q14で「1」~「6」のいずれかとお答えの場合)どのようなテーマで実施していますか。(いくつでも)
1 ヘルスリテラシーの向上.
2 ワークライフバランスの推進
3 職場の活性化
4 仕事と治療の両立支援
5 特定保健指導・保健指導の実施率向上
6 健康増進・生活習慣病予防、転倒等予防対策
7 肩こり・腰痛等の筋骨格系の症状の予防 (食事・運動等)
8 感染症予防対策
9 過重労働対策
10 メンタルヘルス対策
11 その他健康関連全般

Q2.の問いをわかりやすく一覧表で見てみましょう!
番号 | チェック項目 | わかりやすい言い換え |
---|---|---|
1 | ヘルスリテラシーの向上 | 健康情報を理解し、自分で活かせる力をつける |
2 | ワークライフバランスの推進 | 働き方と暮らしのバランスを整える |
3 | 職場の活性化 | チームの雰囲気をよくし、コミュニケーションを活発に |
4 | 仕事と治療の両立支援 | 病気の治療と仕事の両立をサポートする |
5 | 特定保健指導・保健指導の実施率向上 | 健診後のフォローを確実に行う |
6 | 健康増進・生活習慣病予防、転倒等予防対策 | 食事・運動・睡眠を見直し、生活習慣を改善する |
7 | 肩こり・腰痛等の筋骨格系の症状の予防 | 身体への負担を減らす姿勢やケアを身につける |
8 | 感染症予防対策 | 手洗い・換気など職場の感染対策を徹底する |
9 | 過重労働対策 | 働きすぎに気づき、早めに対応する |
10 | メンタルヘルス対策 | ストレスや心の不調に早く気づいて相談できるようにする |
11 | その他健康関連全般 | 季節や対象に応じた健康課題に柔軟に対応する |

実際に健康経営優良法人として評価されている企業は、どのように教育を届けているのでしょうか?教育機会に力を入れている2社の企業事例を見ていきましょう!
(3)企業事例
【花王株式会社】
“自分ごと化”を促す教育機会を体系的に整備
◎ 経営トップの強い意思表示と全社体制の構築
2008年に「花王グループ健康宣言」を発表し、健康づくりを企業の使命として明確化。全社および各拠点に「健康推進責任者」を配置し、組織ぐるみで健康教育・支援を推進。
◎ 「健康白書」でのデータ可視化と改善のサイクル化
健診結果、生活習慣、医療費などを毎年「花王グループ健康白書」としてまとめ、職種・部門ごとの傾向を分析。
この白書をもとに、教育担当者や健康推進者向けの勉強会を実施し、継続的な改善と教育につなげている。
◎ 「ヘルスリテラシー教育」の継続的な展開
社員一人ひとりが、健診結果の意味を理解し、自分の生活や働き方に活かせるような教育を体系化。
また、産業医やかかりつけ医との信頼関係づくりも重要なテーマとし、相談しやすい環境づくりにも注力。
【小田急電鉄株式会社】
“現場に届く”教育を仕組みで実現
◎ラインケア研修(管理職・管理職代行者対象)
人事部および小田急健康管理センタースタッフによるケースワークを含むラインケア研修を実施し、職場でのストレス対応力の強化を図っています。
◎セルフケア研修(新入社員など対象)
新入社員や異動・昇格などで環境変化がある社員に対し、小田急健康管理センタースタッフ(臨床心理士)によるセルフケア研修を提供しています。
◎ストレスチェックの全社員実施と職場別フィードバック
法令に基づき毎年10月にストレスチェックを実施。結果は健康管理センタースタッフ(産業医等)が分析し、職場ごとにフィードバックし、快適職場づくりを推進しています。
◎特定保健指導による生活習慣病の1次予防
健診結果から生活習慣病リスクのある社員を選定し、小田急グループ健康保険組合と連携して特定保健指導を提供、改善行動を促進しています。

企業の具体的な取り組みと、それに対応するチェック項目を見てみましょう!
(4)チェック項目のまとめ
チェック項目 | 実践企業例 | 参考ポイント | 中小企業向けポイント |
---|---|---|---|
1. ヘルスリテラシーの向上 | 花王株式会社 | 健診データの見方を学ぶ勉強会を定期開催 | 健診後の説明会で“気づき”を後押し |
2. ワークライフバランスの推進 | 小田急電鉄株式会社 | 管理職研修で時間管理と休暇促進を指導 | 勤怠システムと連携した“休みの見える化” |
3. 職場の活性化 | 小田急電鉄株式会社 | 職種別の社内コミュニケーション研修 | 少人数での“対話の場”づくりから始める |
4. 仕事と治療の両立支援 | 小田急電鉄株式会社 | セルフケア研修とラインケア研修を実施 | 産業医不在でも社外講師で対応可 |
5. 特定保健指導・保健指導の実施率向上 | 花王株式会社 | 特定保健指導の継続参加を仕組み化 | フォローの仕組みを“社内ルール化” |
6. 健康増進・生活習慣病予防・転倒等予防対策 | 花王株式会社 | 歩数チャレンジや健康意識向上イベント | スマホ活用で参加しやすく |
7. 肩こり・腰痛等の症状の予防 | 小田急電鉄株式会社 | 現場向けストレッチ指導動画を活用 | 職場に貼れる体操ポスターが効果的 |
8. 感染症予防対策 | 小田急電鉄株式会社 | 音声やポスターで感染対策を全員に周知 | 季節ごとに“感染症ミニ知識”を配信 |
9. 過重労働対策 | 花王株式会社 | 勤怠とストレスをデータ連携し早期対応 | 勤怠+簡易ストレスチェックで傾向把握 |
10. メンタルヘルス対策 | 小田急電鉄株式会社 | ストレスチェックの職場別フィードバック | 相談窓口の“見える化”とリマインドが鍵 |
11. その他健康関連全般 | 花王株式会社 | 睡眠改善や女性の健康など個別テーマ配信 | 社内報で“誰かの工夫”を共有する |
(5)よくあるつまずきポイント

チェック項目ごとに、ありがちな“もったいない書き方”と改善例を紹介します。
1. ヘルスリテラシーの向上
❌ 健康教育を行いました
⭕️ 健診結果の見方や生活習慣とのつながりについてeラーニングを実施。受講後アンケートで理解度を確認。
2. ワークライフバランスの推進
❌ 働き方改革を進めています
⭕️ 管理職向けに「労働時間マネジメント研修」を年1回実施。全社員へワークライフ診断ツールも配布。
3. 職場の活性化
❌ 社内コミュニケーションを強化しています
⭕️ 対話型ワークショップを各部署で実施。心理的安全性やチーム力向上をテーマに意見交換を促進。
4. 仕事と治療の両立支援
❌ 両立制度を整備しました
⭕️治療と勤務の両立事例を紹介する社内セミナーを開催。管理職には対応ポイントをまとめたハンドブックを配布。
5. 特定保健指導・保健指導の実施率向上
❌ 対象者に案内しています
⭕️ 健診後、該当者に保健指導の重要性を説明。保健師による個別面談を案内し、参加率を記録。
6. 健康増進・生活習慣病予防・転倒等予防対策
❌ 健康イベントを行いました
⭕️ 歩数チャレンジイベントを実施し、運動習慣定着を狙う。健康だよりでは睡眠改善のミニ特集も。
7. 肩こり・腰痛等の筋骨格系の症状の予防
❌ ポスターでストレッチを紹介しました
⭕️ デスクワーク対策として、社内で「腰痛予防の体操」動画を配信。社員からのフィードバックも実施。
8. 感染症予防対策
❌ ポスターで注意喚起
⭕️ 冬季は「感染予防週間」を設け、動画や社内報で正しい手洗い・換気方法を発信。職場巡回も実施。
9. 過重労働対策
❌ 労働時間を管理しています
⭕️ 月1回、各部署へ労働時間レポートを配信。セルフチェックリストと相談窓口の案内をセットで通知。
10. メンタルヘルス対策
❌ メンタル研修を行いました
⭕️若手社員向けにストレスセルフケア研修を実施。eラーニングで展開し、受講率は90%。
11. その他健康関連全般
❌ 季節ごとに対策を実施しています
⭕️ 夏は熱中症、春は花粉症など、季節に合わせた健康コラムを毎月社内報で配信。社員アンケートも実施。

健康経営って、制度づくりじゃなくて、“動きたくなる空気づくり”。そのカギが「教育」なんですね。
3. まとめ
◎制度はあっても、知らなければ使われない
▶︎社員が「自分には関係ない」と感じていては、どんな制度も形だけで終わってしまいます。
◎情報の“届け方”がカギになる!
▶︎ポスターや通知だけでは動きません。対話・動画・研修など、“響く伝え方”が必要です。ポスターや通知だけでは動きません。対話・動画・研修など、“響く伝え方”が必要です。
◎知れば、“不調の放置”が“早めの対処”に変わる
▶︎メンタル、生活習慣、働き方…学びが「予防」と「対策」への第一歩になります。
◎共通の理解が、職場全体の意識を変えていく
▶︎ 管理職も社員も、「なぜ必要か」を知ることで、組織の健康リテラシーが底上げされます。
◎ 例:チャット配信/動画活用/5分間の朝礼共有 など
▶︎ 時間もコストもかけすぎずに、できることから始めるのがポイントです。
◎「何を伝えるか」だけでなく、「どう伝えるか」も“健康経営”の一部。
教育は、制度を「仕組み」から「文化」へと進化させるための、大切な土台です。

