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社員が私病やけがで長期休職した時、その後どう復職をサポートすればいいのか分からない…
そんな悩みはありませんか?
がん、心疾患、脳卒中、整形外科的なけがなど、今は医療の進歩により 「仕事と治療の両立」 が一般的な時代になっています。
しかし現場では、
「 復職に向けた明確なルールがない」
「復職後にどんな配慮が必要か分からない」
「 社内の対応が担当者ごとにバラバラ」
といった課題が多く見られます。

Sailing Dayの羊一です!今回は 「私病等に関する復職・両立支援の取り組み」 をテーマに、
中小企業でも実践しやすいアイデアや健康経営優良法人認定に向けたポイントをご紹介します。

1. なぜ復職・両立支援が必要なのか?
(1)両立支援の必要性

実は今、私病(がん・生活習慣病・不妊治療・難病など)と仕事の両立はどの企業にとっても避けて通れないテーマになりつつあり、その背景にはこんな変化があるのです。
① 医療の進歩と治療の長期化
→ 治療を続けながら働く「治療就労両立者」が増加
②がんは2人に1人がかかる時代
→ 誰にとっても「自分ごと」として備えが必要に
③人材の定着・活用が最重要課題に
→ 病気で辞めさせない、経験やスキルを活かす取り組みが求められる
④ 社員の心理的不安を減らす
→ いざという時「安心して相談できる会社」であることがエンゲージメント向上にも直結
(2)どうサポートすればいい?
もし社員が病気で長期休職になったら?
治療しながら働きたいと言われたら、どうサポートすればいい?
その時に企業がまず意識すべきは、「一人ひとりに合った両立支援」です。
社員の状況や希望、病気や治療内容は人によって異なるからです。

ここでは、復職・両立支援の 基本となる4つの視点 をご紹介します。
① 相談できる場をつくる
【 相談窓口の明確化】
→社内窓口(人事・産業医・保健師など)や相談フローを明示し、社員が安心して相談できる場を整えましょう。
【 相談していいという社内文化づくり】
→ 社員は「迷惑をかけるのでは」と相談をためらいがち。
日頃から「相談は歓迎」「一緒に考えよう」というメッセージを発信することが大切です。
② 一人ひとりに合った支援を設計する
【 段階的な復職支援の導入】
→ 短時間勤務・リハビリ勤務・時差出勤・在宅勤務など、
無理のない働き方から始められる制度を活用します。
【 個別の働き方の見直し】
→ 勤務内容・配置・勤務地などを、本人の状況に応じて柔軟に調整しましょう。
画一的な対応ではなく「その人に合ったプラン」が鍵です。
③ 制度の整備と社員への周知
【 両立支援に関する制度の整備】
→ 休職制度・復職制度・治療に配慮した休暇制度などを整えておきましょう。
【 制度の「見える化」】
→ せっかく制度があっても「知らなかった」では意味がありません。
イントラやハンドブックなどで社員がアクセスしやすくしておきましょう。
④ 復職後のフォローを忘れずに
【 継続的な面談と状況把握】
→ 復職後も産業医・保健師・人事などが継続的にフォロー。
状況の変化に柔軟に対応できる体制が重要です。
【職場の理解促進】
→ 復帰する社員の上司・同僚にも両立支援に関する教育や面談を行い、チーム全体で支える雰囲気づくりを意識しましょう。

社員は“健康な時だけ”戦力ではありません。人生のさまざまな局面でも「この会社なら働ける」と思える環境づくりこそ、これからの企業力の源になるのです!
2. 企業事例
(1)積水ハウス株式会社
【育児との両立支援】
◎育児休業の1年延長が可能 → 保育園入園まで支援
◎保育費補助制度「スマートすくすくえいど」 → 保育費の約70%会社負担
◎「保活コンシェルジュ」制度 → 保活の情報提供と支援
◎ベビーシッター利用補助 → 日曜など保育施設が使えない時も対応
◎時間単位有給(時間年休) により急な子どもの発熱時にも柔軟対応
◎勤務時間の繰上げ・繰下げ による夫婦での柔軟な働き方調整
【不登校・子どもケアへの対応】
◎「子どもサポート休業」 により小学校低学年の不登校時に勤務時間短縮+休暇取得が可能
【不妊治療との両立支援】
◎短時間勤務・週休3日勤務・休日出勤なし の柔軟な働き方で不妊治療と仕事の両立を支援
◎上長・同僚の理解を得られるよう相談体制を整備
【介護との両立支援】
◎介護休業 最大2ヶ月連続取得可能
◎介護休業期間中に要介護認定・サービス調整などまとめて対応が可能
◎その後も2週間単位の介護休暇取得が可能 → 柔軟に対応できる
【退職後の復職支援】
◎「退職者復職登録制度」 により退職後も再雇用への道が開かれている
◎登録者は育児・介護・配偶者転勤などの事情から復帰しやすい
◎復帰後も 育児支援制度やベビーシッター補助 が活用可能 → 安心してキャリア継続

積水ハウスのように柔軟な支援制度があると、社員一人ひとりがもっと自分らしく働けますね!
(2)京セラ株式会社
【段階的に復職できる仕組み】
◎半日から始めて徐々に勤務時間を延ばす「慣らし勤務制度」と、実際に職場へ通勤する「通勤訓練」を導入。復職に向けた“準備期間”として設計されている 。
【金銭的負担を最小限に抑えるサポート】
◎基本給の0.02%を財源とし、労使折半で補償。傷病手当金終了後も会社から継続補償が提供され、給与日は通常通り 。
【産業医・保健スタッフによる継続的ケア】
◎定期的な面談で病状を把握し、入院中は面会、職場復帰後もフォロー。休職者と会社の繋がりを途切れさせず、精神的安心感を提供 。
【制度内容の透明化】
◎復職制度や補償内容をイントラに詳細掲載。社員がいつでもアクセスできる体制を構築 。
【治療と仕事のバランスを重視】
◎金銭的支援だけでなく、精神的サポートや治療継続しやすい環境づくりに注力。復職者のモチベーション向上にもつながっている。
(3)第一生命保険株式会社
【治療と仕事の両立支援ハンドブックの配布】
◎がん治療をはじめとした治療と仕事の両立に関する情報や制度をまとめたハンドブックを全社員に提供。
◎本人や家族が治療と両立する際の相談先・社内外のサポート内容を明確化。
【治療のための勤務制度の柔軟化】
◎ 短時間勤務・時差出勤・在宅勤務の柔軟な活用を認め、治療や通院と仕事の両立を可能に。
◎ 有給休暇の時間単位取得も整備。
【休職・復職支援】
◎ がんなど長期療養が必要な場合の休職期間の最大3年延長。
◎復職時は、段階的な勤務再開(リハビリ勤務)を取り入れ、無理のない職場復帰をサポート。
【復職後のフォロー体制】
◎ 産業医・保健師・人事担当者が連携し、復職後の健康面・業務面のフォローアップを継続的に実施。
◎ 定期的な面談の場を設け、状況変化に柔軟に対応。
【がん患者の雇用継続実績】
◎ 第一生命では、がん罹患者の継続雇用率は98%以上と高い実績を誇っている。
◎がん治療と就労の両立を支える制度が実際に活用され、社員が安心して働き続けられている。

社員が病気やケガで離脱することは、どんな職場でも起こり得ます。だからこそ「その後、どう迎え入れるか」が企業の“本当の優しさ”の見せどころですね!
3. 健康経営優良法人と「復職・両立支援」の関係
『健康経営優良法人認定制度』は、経済産業省が企業の健康経営の取り組みを見える化し応援するために、2016年から始まった制度です。
その認定要件の中に『私病等に関する復職・両立支援の取り組み』があります。

健康経営優良法人の認定要件も一緒に見ていきましょう!
(1)健康経営優良法人の認定要件
「健康経営優良法人2025」(中小規模法人部門)の申請期間は2024年8月19日〜2024年10月18日でした。
認定結果は、2025年3月10日に発表されています。毎年その時期に行われる予定です。
必須項目が7つあり、その他項目が①〜⑮まであります。
その中で『私病等に関する復職・両立支援の取り組み』はその他項目の⑦に該当します。

(2)申請時のチェック項目
申請時に問われるのは、次のような 「具体的な取り組み」 です。
経済産業省が認定している「健康経営優良法人認定制度」には、申請する時に以下のチェック項目があります。
Q1.私病等を持つ従業員の復職支援、仕事と治療の両立支援に向けて、どのような取り組みを
行っていますか。
(いくつでも)
◆メンタルヘルス不調に特化した取り組みは除きます。Q25でお答えください。
1 産業医および主治医の意見の聴取等により復職に向けた支援体制・計画を整備している
2 休業期間中や復職後における相談窓口の設置や支援体制の構築を行っている
3 休職からの復職を円滑にするために試行的・段階的な勤務制度を整備している
(例:短時間勤務、試し出勤制度、リハビリ勤務等)
4 病気による休職に関する制度を整備している
5 両立支援に関する相談体制や対応手順を整備し、内容を周知している
(例:社内窓口、保険の付帯サービス、地域の相談窓口等)
6 本人の状況を踏まえた働き方(配置・勤務内容・勤務時間・勤務地等)を策定している
7 治療に配慮した休暇制度や勤務制度を整備している
(例:時間単位年次休暇、有給の病気休暇、通院時間の就業時間認定、時差出勤、在宅勤務等)
8 復帰する部門の上司に対する、両立支援への理解を促すための教育・定期面談等を実施している
9 団体保険等により治療費の補助や休業補償の支給を行っている(健保組合からの一時金は除く)
10 仕事と治療の両立に向けた定期的な面談・助言を実施している
11 不妊治療に対する支援(通院の際の有給の特別休暇付与等、性別を問わない支援)
12 特に行っていない ⇒評価項目不適合

必須項目ではありませんが、評価項目の一つなのでやっておくと認定に有利になります!続いて、先ほど企業事例でご紹介した3つの企業が「私病等に関する復職・両立支援」においてどの項目に対応しているのか見ていきましょう!

(3)企業別チェック項目一覧表

企業事例でご紹介した各社の具体的な取り組みは、健康経営優良法人の「私病等に関する復職・両立支援」チェック項目のどこに該当するのか以下の一覧表で整理してみました。自社での取り組みの参考として、ぜひチェックしてみてください!
チェック項目 | 積水ハウス株式会社 | 京セラ株式会社 | 第一生命保険株式会社 |
---|---|---|---|
① 産業医・主治医の意見聴取 | ― | ◎ 産業医・主治医と復職準備 | ◎ 産業医・保健師・人事連携 |
② 休業中・復職後の相談体制 | ― | ◎ 面談・面会・フォロー | ◎ 継続的なフォロー体制 |
③ 段階的な勤務制度 | ― | ◎ 慣らし勤務・通勤訓練 | ◎ リハビリ勤務制度 |
④ 休職制度の整備 | ◎ 育児・介護休業 ◎ 退職者復職制度 |
◎ 傷病手当終了後の継続補償制度 | ◎ 最大3年休職延長制度 |
⑤ 相談体制・周知 | ◎ 保活コンシェルジュ ◎ 不妊治療相談 |
◎ 制度内容をイントラで周知 | ◎ ハンドブック配布 ◎ 相談先明記 |
⑥ 本人状況に応じた働き方 | ◎ 勤務時間繰上げ・繰下げ ◎ 短時間勤務 |
◎ 勤務時間・勤務内容調整 | ◎ 短時間勤務 ◎ 在宅勤務 ◎ 時差出勤 |
⑦ 治療配慮型勤務制度 | ◎ 時間単位有休 ◎ 短時間勤務 |
◎ 慣らし勤務 ◎ 通院対応 |
◎ 時間単位有休 ◎ 在宅勤務 ◎ 時差出勤 |
⑧ 上司への教育・面談 | ― ※明記なし | ― ※明記なし | ― ※明記なし |
⑨ 団体保険等の治療費補助・休業補償 | ◎ ベビーシッター補助(参考) | ◎ 継続補償制度(団体保険相当) | ― ※明記なし |
⑩ 定期的な面談・助言 | ― | ◎ 定期面談実施 | ◎ 定期的なフォロー面談 |
⑪ 不妊治療支援 | ◎ 短時間勤務 ◎ 週休3日勤務 ◎ 相談体制 |
― ※明記なし | ◎ 休暇・支援方針あり |
【補足】※表に「―」とある項目は、公開情報からは確認できなかったものです(実際には導入済の可能性もあります)

今回の3社のように 「制度がある」だけでなく「実際に使われる・周知されている」ことが評価のポイントになります。次の項目では申請をスムーズに進めるために 押さえておきたい“やっておくべきこと” をまとめてご紹介します!
(4)健康経営優良法人の申請時にやっておくべきこと
①制度だけで満足しない!「運用実績」が必要
制度を整えて終わり……では申請時に評価されません。
「実際に社員が制度を利用した記録」が求められます。
⭕️利用件数・利用人数の把握
⭕️運用開始時期の記録
活用状況(例:復職の件数、両立支援の面談回数)の集計
「制度はあるが誰も使っていない」と見なされないように、必ず実績を残す工夫をしましょう。
②周知は記録が残る形で行う
社内メールや口頭だけの周知は申請時の証拠になりにくいことがあります。
以下のように、記録として残せる形にしておくのが安全です。
⭕️社内イントラに掲載 → 掲載画面のスクリーンショットを保存
⭕️ポスター・社内報 → 写真に撮って保存
⭕️メールの場合 → PDFに変換して保存
「いつ・どのように周知したか」を後で示せる準備をしておきましょう。
③ルールや手順は文書化しておく
担当者や部署ごとの“暗黙ルール”はNG。
必ず、文書化された公式なルール・手順があることが求められます。
⭕️就業規則や社内規程に記載
⭕️ 社内ポータルに明文化した「両立支援ガイドライン」を掲載
⭕️両立支援相談フローを社内マニュアル化
「誰が見ても分かる状態」にしておくことで、評価時にも有利になります。
④実績データ・記録を残す習慣をつける
制度を導入しても、データが残っていなければ証明が難しいです。
普段から、次のような実績の記録を意識しておきましょう。
⭕️ 復職・両立支援面談の実施記録(日時・参加者・内容メモ)
⭕️ 試行的勤務・時短勤務の実施状況(期間・人数)
⭕️ 不妊治療支援・介護休暇等の利用履歴
こうした情報は申請時に求められることが多いので、担当者が管理表などで定期的にまとめておくのがおすすめです。

社員の人生に寄り添う制度がある会社は、結果として“選ばれる企業”になります。それは単なる福利厚生ではなく、“この会社なら安心して働ける”という信頼そのもの。そんな信頼の積み重ねが、企業の持続的な成長につながっていくのですね!
5. まとめ
◎病気やけがでの休職は誰にでも起こりうるからこそ、“備え”が企業力になる
◎「一人ひとりに合った両立支援」が復職のカギ
◎制度をつくるだけでなく、実際に“使われる仕組み”が評価される
◎積水ハウス・京セラ・第一生命のような実践企業に学ぶと、方向性が見える
◎健康経営優良法人の認定項目にも対応しておくと、申請時にも有利に
◎日頃から周知・記録・文書化を意識し、実績が見える状態を整えておこう
◎「復職後も安心して働ける会社」は、社員にとって大きな信頼と安心につながる

