「たばこを吸わない人も、職場で健康を害することがある」それが受動喫煙の問題です。
職場に喫煙スペースがある。休憩所から漏れた煙が、オフィスまで流れてくる。
そんな環境では、たばこを吸わない人も有害物質にさらされることになります。
こうしたリスクを防ぐために、「健康経営優良法人」の認定制度では2019年から、受動喫煙対策が“必須項目”に加わりました。

こんにちは、Sailing Dayの羊一です。
社員全員の健康を守るには、「たばこを吸わない人」への配慮が欠かせません。いま、職場にどんな対策が求められているのかわかりやすく解説していきます。
1. 健康経営における受動喫煙とは?
たばこを吸っていなくても、近くにいる誰かのたばこの煙を吸い込んでしまうーー
これが「受動喫煙」です。

本人の意思とは関係なく、たばこの煙を吸ってしまうことから「他人のたばこで健康を害するリスクがある」とされています。
たばこの煙には、有害な物質が多く含まれています。
中でも、たばこの先から立ち上る「副流煙」には、喫煙者が吸い込む煙よりも高い濃度の有害物質が含まれているといわれており、吸わない人の健康にも大きな影響を与えます。
心臓病や脳卒中、肺がんなど、命にかかわる病気のリスクも指摘されており、職場での対策がますます重要になっています。

健康経営優良法人認定に置いて喫煙対策は2つあります。
まずは、「⑮喫煙率低下に向けた取り組み」

こちらは、中項目の“従業員の心と身体の健康づくりに関する具体的対策”より、選択して行うものになりますが、この記事の「受動喫煙対策に関する取り組み」は申請時の必須項目となので、しっかり取り組んでいきましょう。
(1)施設ごとの対応
健康経営優良法人の申請では、施設ごとに「受動喫煙を防止するための対応」が求められます。
まず、施設の種類によって求められる基準が異なります。施設の振り分けは下記の通りです。
第一種施設
学校、病院、児童福祉施設など
第二種施設
第一種施設および喫煙目的施設以外の施設(工場、オフィス、飲食店など)
喫煙目的施設
シガーバーなど

自社の対応はどうしたらいいのか見てみましょう。
【屋内の対応】
✅ 屋内はすべて禁煙
❌ 喫煙室の設置はできない
【敷地内(屋外)の対応】
✅ 屋外に喫煙所を設置する場合は厳しい条件あり(煙が漏れない構造など)
❌ それ以外の屋外スペースは禁煙
【屋内の対応】
✅ 屋内全面禁煙が基本
✅ 条件を満たせば喫煙室の設置も可
【敷地内(屋外)の対応】
✅ 屋外に喫煙所を設置できる(一定の構造基準あり)
❌ それ以外のスペースは禁煙
※喫煙室をつくる場合は基準に注意
【屋内の対応】
✅ 喫煙できる(施設の目的に応じて)
【敷地内(屋外)の対応】
✅ 屋外の喫煙も可能(法に従った管理が必要)
※標識掲示や20歳未満の立入禁止などが必要
健康経営優良法人の認定を受けるためには、すべての事業所において、受動喫煙対策を実施していることが条件となっています。
(2)必須事項
健康経営優良法人申請時、以下のいずれかの対策が求められます。
屋内全面禁煙もしくは完全分煙
◎もっとも効果的な対策
社員が働く”すべての建物内”を禁煙とし、たばこの煙が一切入り込まない環境を整えることで、非喫煙者の健康を確実に守ることができる。
そして、喫煙スペースを”屋外”に設け、煙が室内に流れ込まないように導線を考慮することで、屋内全面禁煙を実現できる。
◎事情により屋内全面禁煙が難しい場合は、屋内に喫煙室を設ける
【条件】
・壁・天井で囲まれた密閉空間であること
・専用換気装置により煙を外へ逃がす
・出入口・換気口からの気流が0.2 m/s以上で室内煙が外へ流れ出さないよう管理
・飲食禁止(喫煙専用室)/加熱式たばこ専用室は飲食可だが室外と隔離された構造であること
・20歳未満立入禁止を徹底
・設置場所や規模を事業所ごとに明確に定め、標識掲示なども必要
ここで重要なのは、「本社だけ」「大きなオフィスだけ」ではなく、支店・営業所・工場なども含めた“全事業所”で同様の対策を講じていることが認定の条件となる点です。
2. 組織として取り組む「受動喫煙対策」
受動喫煙対策は、喫煙所の設置やルールの掲示だけでは十分とは言えません。
本当に職場全体で対策を進めていくには、組織的な体制づくりが欠かせません。
◎事業所ごとに受動喫煙防止のための推進計画を立てること
◎衛生委員会や産業医と連携し、職場の実態を把握しながら定期的な見直しや改善を行うこと
◎新しく入社した社員に向けて、社内ルールの周知や研修を行うこと
推進計画は、誰が、いつ、どのように対応を行うか、明確なスケジュールや担当者を定めておくことで、継続的な取り組みが可能になります。
企業として「受動喫煙を防ぐ意思」を明確にし、仕組みとして運用していくことが、健康経営の大前提になります。
(1)妊婦・疾患者などへの配慮
職場には、受動喫煙による影響を特に受けやすい人もいます。
妊娠中の方や、喘息・呼吸器疾患・心疾患などを持つ従業員にとっては、わずかな煙でも体調に大きな影響を及ぼすことがあります。
◎喫煙所の近くにデスクを配置しない
◎清掃や設備点検など、喫煙場所に立ち入る業務を避ける
◎本人の申し出に応じて、配置転換や個別の対応を検討する
こういった具体的な配慮をしましょう。
(2)支援措置(助成制度・外部サポート)
「受動喫煙対策を進めたいけれど、喫煙室の設置費用が不安…」
そんな企業のために、厚生労働省では職場の受動喫煙対策を支援する助成金制度を設けています。
◎喫煙専用室の設置・改修
◎換気設備の導入
◎喫煙所の移設や構造改善 など
実際かかる費用のうち、中小企業であれば最大100万円・費用の2/3までが補助対象となる制度もあります。
また、技術的な相談や申請サポートを行ってくれる窓口も各地に整備されており、「どう進めたらいいか分からない」という企業も安心して取り組むことができます。
受動喫煙対策は、単に制度対応のためだけではなく、社員一人ひとりの健康と働きやすさを守るための大切な取り組みです。
組織的な推進体制、個別の配慮、助成制度の活用――
できることから一歩ずつ、実効性のある対策を進めていきましょう。
3. 健康経営優良法人認定制度申請時のチェック項目
経済産業省が認定している健康経営優良法人認定制度には、申請時、下記の健康経営のチェック項目があります。
1.屋内・屋外共に、全ての事業場で適合要件を超えた対策(屋外を含む敷地内禁煙)をとっている(屋外・屋内全て◎)
2.屋内については、全ての事業場で適合要件を超えた対策をとっているが、屋外は適合要件どおりの対策をとっている事業場がある(屋内:全て◎、屋外:○または◎)
3.一部の事業場で適合要件を超えた対策をとっているが、その他の事業場は適合要件どおりの対策をとっている(屋内:○または◎、屋外:○または◎)
4.屋内・屋外共に、全ての事業場で適合要件どおりの対策をとっている(屋内・屋外全て○)
5.適合要件に満たない事業場がある ⇒健康経営優良法人不認定
6.答えたくない ⇒健康経営優良法人不認定
(1)受動喫煙対策に関する取り組み 参考企業例
社会医療法人正和会
患者や利用者の健康を守るとともに、職員自身の健康保持・増進を目的に、受動喫煙対策を全施設で推進しています。
◎2010年頃から喫煙所の段階的縮小を開始し、2018年4月には全施設で敷地内全面禁煙を達成。
◎喫煙所をコミュニケーションの場として利用する職員もいたが、社会的な禁煙機運の高まりもあり、職員からの理解も得やすかった。禁煙後は「禁煙にして良かった」という前向きな声も多く聞かれるようになった。
◎敷地内禁煙により、喫煙本数の減少や禁煙の成功例が増加。「朝スッキリ起きられるようになった」「ご飯が美味しくなった」など、生活習慣の改善につながった事例もある。
このような取り組みが評価され、秋田県版認定健康経営優良法人や健康経営優良法人「ブライト500」などに認定されている。
(参考:全国の受動喫煙対策事例 より)
健康経営優良認定法人申請時のチェック項目に当てはまるもの
1.屋内・屋外共に、全ての事業場で適合要件を超えた対策(屋外を含む敷地内禁煙)をとっている(屋外・屋内全て◎)
東洋染工株式会社
社員の健康を守るため、社内からの提案をもとに、分野別のチームで受動喫煙対策を含めた健康経営を推進しています。
◎社内の各部門から構成された「健康会議」の中に「禁煙チーム」を設置し、屋内の喫煙所を撤去。健康被害に関する講習会や禁煙外来費用の補助制度も整備。
◎社員を対象に喫煙に関するアンケートを実施し、季刊誌「健康新聞」にて受動喫煙のリスク啓発を継続。喫煙・禁煙に関する情報提供を全社的に行っている。
◎活動内容は経営会議でも議題として共有され、現場だけでなく経営層も巻き込んだ体制で禁煙推進を実施。今後は国立がん研究センターとの連携も視野に、支援体制のさらなる強化を予定。
これらの取り組みを通じて、社員主導での健康経営が社内文化として根づきつつあります。
(参考:受動喫煙対策企業事例 より)
健康経営優良認定法人申請時のチェック項目に当てはまるもの
2.屋内については、全ての事業場で適合要件を超えた対策をとっているが、屋外は適合要件どおりの対策をとっている事業場がある(屋内:全て◎、屋外:○または◎)
広島大学
学生・教職員の健康増進と公共意識の育成を目的に、長期計画に基づいてキャンパス全体の禁煙化を進めています。
◎2018年度に「広島大学キャンパス全面禁煙宣言」を発表し、2020年1月から全キャンパス(東広島、霞、東千田)で全面禁煙を実施。事前のロードマップに基づき、段階的に進行。
◎都市部・郊外といったキャンパスごとの地域特性を踏まえ、地域住民への配慮も含めた禁煙区域を設計。キャンパス外にも影響を与える設計で、社会との調和を意識した対応を行っている。
◎学生への禁煙意識醸成を重視し、講義や禁煙教育、ポスターコンテスト、チラシ配布、地元ラジオでの発信など、包括的な周知活動を展開。「強制ではなく理解と参加を促す」姿勢で取り組んでいる。
これらの取り組みにより、大学全体として“単なる禁煙”ではなく、“学生の健康的な生活習慣づくり”を最終目標とした受動喫煙対策が推進されています。
(参考:受動喫煙対策事例 より)
健康経営優良認定法人申請時のチェック項目に当てはまるもの
3.一部の事業場で適合要件を超えた対策をとっているが、その他の事業場は適合要件どおりの対策をとっている(屋内:○または◎、屋外:○または◎)
(2)今からできることリスト

ここからは健康経営優良法人の申請時に役立つ『今からできること』を具体的にご紹介します!
1.屋内・屋外共に、全ての事業場で適合要件を超えた対策(屋外を含む敷地内禁煙)をとっている(屋外・屋内全て◎)
▶︎敷地内全面禁煙の宣言と社内通知を行う
▶︎禁煙外来の費用一部補助する。健康保険組合などと連携できれば負担も軽減できる。
2.屋内については、全ての事業場で適合要件を超えた対策をとっているが、屋外は適合要件どおりの対策をとっている事業場がある(屋内:全て◎、屋外:○または◎)
▶︎屋内喫煙所の廃止+屋外1ヵ所に限定(屋外でも通路・窓の近くは避け、喫煙所を目立たない位置に配置してみる)
▶︎喫煙所を仕切り付き・表示付きに整備する
▶︎分煙だけで終わらず、定期的な見直しを行う。将来的に「敷地内禁煙」を視野に入れることが大事
3.一部の事業場で適合要件を超えた対策をとっているが、その他の事業場は適合要件どおりの対策をとっている(屋内:○または◎、屋外:○または◎)
▶︎拠点ごとの対応状況を整理し、「改善計画」を明確化
▶︎全拠点で統一的な禁煙ルールを目指して段階的に進める
▶︎一部の部署や職場でモデルケース的に禁煙強化を行う
4.屋内・屋外共に、全ての事業場で適合要件どおりの対策をとっている(屋内・屋外全て○)
▶︎まずは屋内から全面禁煙化
▶︎社内で「禁煙支援制度」を作る(禁煙ガム配布、健康診断時の禁煙アドバイスを行う)
▶︎ポスターや周知で「受動喫煙ゼロ」に向けた空気づくりを行う
中小企業でも、コストをかけずに始められる禁煙対策はたくさんあります。

まずは屋内の対策から。少しずつ取り組むことが、従業員の健康と企業の信頼につながります。
(3)申請にあたり保存しておくべきデータ
健康経営優良法人の申請に際しては、申請内容の正確性と信頼性を確保するため、申請期間の最終日から2年間、申請内容を裏付ける資料の保存が義務付けられています。
「受動喫煙対策に関する取り組み」では、下記のデータが求められる場合があるので、用意しておきましょう。
受動喫煙対策への取り組み確認できる写真
もしくは
近隣に対して受動喫煙対策の取り組みを実施していることを通知した記録 等
担当者は、しっかり資料をまとめておきましょう。
データ類は、申請期間最終日から2年間保存し、当該資料の提出を求められた場合には1週間以内に対応しましょう。
4. まとめ
◎ 受動喫煙対策は健康経営優良法人の“必須項目”
▶︎ 対策が不十分な事業場があると認定対象外になる可能性がある
◎ 対応レベルは4段階、全事業所の状況確認が必要
▶︎ 本社だけでなく、支店・工場などすべてに共通の対策が必要
◎ 第一種・第二種施設で求められる基準が異なる
▶︎ 第一種は屋内全面禁煙、第二種は条件付きで喫煙室設置が可能
◎ 組織としての推進体制がカギ
▶︎ 推進計画の策定、衛生委員会との連携、新入社員への周知などが重要
◎ 中小企業向けの支援策や助成金制度も活用可能
▶︎ 喫煙室改修や換気設備導入に最大100万円の助成も