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台風や地震、急な停電、システムトラブルや重要な社員の不在。
もし、明日会社が動かせなくなったら…どうしますか?
思いもよらない出来事で、業務が止まってしまうことは、どんな会社にも起こりうる話です。
そんな“もしも”に備える計画、
それが BCP(事業継続計画)です。

こんにちは、Sailing Dayの羊一です。
中小企業庁がとても分かりやすい「BCP記入シート」を用意しています。
このブログでは、そのシートを使いながら、初めての人でも挫折しないBCPの作り方を解説していきます。
1. BCP(事業継続計画)とは?
BCP(Business Continuity Plan/事業継続計画)
非常時に、誰が・何を・どう対応するか?を社内で共有しておくための計画書のこと。
地震や台風、豪雨による水害、感染症の流行。
企業を取り巻くリスクは、ある日突然、なんの前触れもなくやってきます。
そしてそのとき、会社がどう動けるかで、その後の経営に大きな差が生まれます。
そんな時のためにBCPを用意しておくのがベストです。
(1)BCPが会社を救った実例
宮城県名取市のリサイクル会社「オイルプラントナトリ」は、東日本大震災で壊滅的な津波被害を受けながら、わずか1週間で事業を再開しました。
実はその約1か月前、社内で3年かけてつくり上げた「BCP(事業継続計画)」が完成していたのです。
従業員が中心となって、“いざという時に何を優先して動くか”を明確にしていたことで、迷わず行動できました。
津波からの迅速な避難、取引先への早期連絡、県外企業との代替設備の連携。
これらすべてが、BCPに基づく備えの力です。
(出典:ニュートン・コンサルティング株式会社「リスク管理Navi」 より)
このように、災害やトラブルの“その日”に、会社をどう動かすかは、事前の備え次第で大きく変わります。
とはいえ、「うちの会社は何から始めたらいいのか分からない」という方も多いはず。中小企業庁が定めたチェックリストを使って、あなたの会社の備えがどのレベルなのか確認しましょう。
(2)BCP取り組み状況チェック

□をクリックすると☑︎がつきます。
人的資源
物的資源(モノ)
物的資源(金)
物的資源(情報)
体制等
(出典:中小企業庁 BCP取組状況チェック より)

いくつ当てはまりましたか?
チェック数が「3個以下」だった方
今、もし災害や感染症などの緊急事態が発生したら…
あなたの会社の事業は長期間にわたって停止し、最悪の場合、廃業に追い込まれる可能性が高い状況です。
一緒に中小企業庁の記入シートを使って、BCPを作っていきましょう。
チェック数が「15個以下」だった方
ある程度の備えはできているようですが、本当に事業を守れるかというと、まだ不安が残る状態です。
策定しただけで満足せず、平常時から運用し、従業員にも周知されている状態を目指しましょう。
引き続き、実践的なBCP策定と運用を進めていくことが重要です。
チェック数が「16個以上」だった方
あなたの会社では、BCPの考え方に沿った取り組みが着実に進められているようです。
とはいえ、BCPは一度作って終わりではありません。
事業環境の変化や新たなリスクに備えるためにも、定期的な見直しと訓練が不可欠です。
今後は、既存の計画をより強化し、いざという時に本当に役立つBCPへとブラッシュアップしていきましょう。
2. BCPの策定
記入シートに沿って解説していきます。下記の記入シートのダウンロードをお願いします。
(出典:中小企業BCP策定運用指針 より)
(1)BCP策定手順
下記の手順で進めていきます。

①基本方針の立案
BCPをつくるとき、まず取りかかるべきなのが「基本方針の立案」です。
これは、単なる計画づくりではなく、会社として何を守りたいのか、なぜ備える必要があるのかを明確にする大切なステップです。
「従業員の命を守りたい」
「取引先との約束を果たして信頼を守りたい」
「事業を止めず、雇用や生活を守りたい」
こうした想いが、すでに経営者の頭の中にはあるはずです。

その想いを言葉にして、会社の経営方針とつなげて整理することで、ぶれないBCPづくりの軸ができます。
▼基本方針を記入シートの【様式1】に記入してみましょう。

②重要商品の検討
地震、災害や事故など、想定外の事態が起きたとき、人もモノも限られる中で、会社として何を優先的に守り、続けていくのか?その判断こそが、BCPの要になります。
多くの企業では、複数の商品やサービスを展開しているはずです。しかし、いざというときにはすべてを一度に対応するのは困難です。
だからこそ、限られた人員や設備をどこに集中させるかをあらかじめ決めておくことが必要です。
それが、「重要商品・サービス」の特定です。
これは、「儲かるから」だけでなく、「供給責任がある」「他社では代替できない」など、会社の基本方針に直結するものであることが大切です。
まずは、自社にとって最も優先すべき商品・サービスは何か?
この問いにしっかり向き合い、「いざ」というときに迷わず動けるように備えておきましょう。
決まったら、【様式1】に記入してください。
③被害状況の確認
企業が直面するリスクは、決して「地震」だけではなく、「新型インフルエンザの流行で従業員が出社できなくなる」「台風や大雨で物流が止まり商品が届かない」そんなことも、すべてBCPの対象です。
実際に、地震で工場が稼働できなくなったり、店舗が壊れて営業が不可能になったりといったケースは、これまでにもたくさん起きています。
まずは、あなたの会社だったら、どんな影響を受けるだろう?と想像してみてください。
「生産が止まったら、お客様への納品はどうなる?」
「店舗が使えなくなったら、販売はどう続ける?」
「通勤できない社員が続出したら、業務は回る?」
こうした“もしも”の状況を具体的に思い浮かべることが、BCPの第一歩です。
▼【様式2】の大規模地震(震度 5 弱以上)で想定される影響を読み、どのような影響があるのか考えてみましょう。


頭の中だけで終わらせず、実際に書き出して整理することも大切です。自社に本当に必要な備えが見えてきます。
④事前対策の実施

これまでのステップで、地震などの災害が起きたときに、あなたの会社がどんな影響を受けるか、ある程度イメージが持てたのではないでしょうか。
そんな状況下でも、会社として「重要商品・サービス」の提供をしなくてはなりません。
しかし、それを実現するには、製造や販売に関わる人材、機械設備、原材料、情報、資金など、さまざまな“経営資源”が必要になります。
つまり、BCPを策定するうえで欠かせないのが、こうした経営資源をいかに確保するかという「事前対策」なのです。
「金融機関と良好な関係を築いておくことで、いざというときの資金繰りがスムーズになる」
「顧客管理簿を日頃から整理しておくことで、どこに優先して連絡・対応すべきかが明確になる」
これらはすべて、平常時からの備えで差が出る部分です。
ふだんから「自社の強み・弱み」を把握しておくことが、緊急時に活きてきます。

「今のうちに整えておけばよかった…」と後悔しないように、今だからこそ、できる準備をひとつずつ始めていきましょう。
また災害などによって被害が大きくなれば、会社の建物や設備が使えなくなることもあります。
また、これまで通りの仕入れ先から部品や材料が届かなくなる可能性もあります。
そんなときに備えて、「代替手段」の準備が重要です。
「他の工場で生産を行う代替生産」
「別の仕入れ先から必要な物を確保する代替調達」
こうした対応ができれば、事業の継続がぐっと現実的になります。
もちろん、災害への備えはこれだけではありません。
よくある誤解として、「BCP=お金がかかるもの」と思われがちですが、資金をかけなくてもできる備えもたくさんあります。
「一人で複数業務をこなせるよう、多能工の育成を進める」「安否確認の方法を、社内であらかじめ共有しておく」こうした取り組みは、コストをかけずに始められる大切な対策です。
資金がかかる対策(安否確認システムの導入、耐震補強など)は、無理のない範囲から検討し、まずは今すぐできることからひとつずつ始めることが、BCP策定の近道です。
▼内容を整理して、【様式3】に記入をしていきましょう。

⑤緊急時の体制の整備
BCP(事業継続計画)をどれだけ綿密に立てても、実際に災害などが起きたときに冷静に対応できなければ意味がありません。
そのためにも、緊急時の行動や指示系統をあらかじめ整理しておくことがとても重要です。
災害時の対応には、たとえばこんな動きがあります。
「被害状況の把握」
「社員の安否確認」
「重要商品の供給体制の維持」
「復旧活動の指示」 など
こうした全社対応の中心となるのが「統括責任者」です。
この人物が、社内の意思決定を速やかに行い、復旧への指揮をとる役割を担います。
ただし、統括責任者自身が被災して不在になる可能性も十分にあり得ます。
そのため、必ず「代理責任者」も決めておきましょう。
「誰が、どのタイミングで、何を判断・指示するのか」この体制が明確になっているかどうかが、緊急時の混乱を左右します。
BCPの中でも、責任者と指揮系統の明確化は最優先事項です。ぜひ今のうちに、社内で確認・共有しておくことをおすすめします。
▼緊急時における統括責任者及び代理責任者を【様式4】に記入してください。

3. BCPの運用
せっかく時間をかけてBCP(事業継続計画)を作成しても、実際の緊急時に機能しなければ意味がありません。
たとえば、いざという時に従業員がBCPの内容を把握しておらず、どう行動すればいいのかわからなかったり、BCPに書かれている連絡先や対応手順が古く、現在の体制に合っていなかったりすると、かえって現場の混乱を招いてしまいます。
こうした事態を防ぐためには、BCPを策定した後の「運用」が重要になります。従業員が内容を理解し、必要な場面で迷わず行動できるようにしておくこと。そして、組織の変化や業務内容の見直しに合わせて、BCPも定期的に更新していく必要があります。
BCPは一度作って終わりではありません。社内でしっかり定着させ、常に「使える状態」にしておくことで、初めて“備え”として意味を持ちます。実践的に活用できるBCPを目指して、日常の業務の中に少しずつ取り入れていきましょう。
(1)BCPの定着(社内教育活動の実施)
◎毎年1回以上、経営者が従業員に対して BCP の進捗状況や問題点を説明する
◎従業員各自が BCP の取組状況、役割分担の定期的な確認を行う
◎策定した BCP のポイントに関する社内研修会を開催する
◎BCP の内容等に関する社内掲示を実施する
(出典:中小企業庁 事業継続計画 より)
BCPを実際に活用していくためには、自社の組織構成や教育体制に合わせた「教育計画」をしっかり立てておくことが大切です。
たとえば、役職ごとに求められる対応が異なる場合や、複数の事業所がある場合には、それぞれの現場に即した教育内容を検討する必要があります。全社員が共通して理解すべき基本的な内容と、部署ごとの役割に応じた内容とを分けて考えるのも効果的です。
また、少なくとも年に1回は、経営者から従業員に対してBCPの進捗状況や課題を共有し、各自の取り組みや役割が適切かどうかを確認する機会を設けましょう。こうした機会を通じて、従業員の理解を深め、行動につなげることができます。
自社に合った教育のかたちを考えながら、現場で活かせるBCPの運用につなげていきましょう。
▼【様式5】に会社の教育計画を書き出してみましょう。

(2)BCPの見直し
会社の状況は日々変化していきます。BCPも、それに合わせて柔軟に内容を更新していく必要があります。
顧客の構成が変わったり、在庫の持ち方を見直したり、取り扱う商品やサービスに変更があった場合や生産ラインの再編や人事異動などがあれば、それに応じてBCPの内容も見直すことが求められます。
BCPの見直しは、特別な作業ではありません。日頃の経営管理の延長線上にあり、普段から実施している顧客管理や在庫管理などの中で、見直しのきっかけが自然と現れてきます。
また、これから実施を予定している事前対策についても、進み具合や課題を定期的にチェックし、内容やスケジュールを調整していくことが重要です。
そのために、あらかじめBCPの中に「どんなときに見直すか」という基準を明記しておくと、必要なタイミングを見逃さずにすみます。たとえば、組織改編や業務変更があったとき、年度の節目ごと、などが見直しの目安になります。
見直す基準について【様式5】に記入しましょう。

社内の変化に合わせて、BCPも自然に更新される仕組みをつくっておくことで、常に現場で使える計画へと育てていけます。
参考資料
4. まとめ
◎ BCPは「非常時に会社を止めないための備え」
◎ 中小企業庁の記入シートを使えば簡単に作れる
◎ 策定の流れは5ステップ
①基本方針
②重要業務
③被害想定
④事前対策
⑤緊急時の指揮体制
◎ 作るだけでなく「社内に定着させて使える状態」が大切
◎ 定期的な見直しと教育がBCPのカギ